夜、ぐっすり寝ることができるようにと始めた朝の散歩。いつものように80代から108歳までが施設から歩き始めた。なかには車いすや歩行器が欠かせない入居者もある。JR周防花岡駅で一両編成のローカル線をホームで見送るのを日課にしている。

しかし、その日は様子が違った。普段は無人駅なのに駅員が5人も。やってきた列車はいつもワンマンなのに、今日は車掌まで。実は、お年寄りから、「列車に乗って、買い物に出かけたい」という声があがり、紆余曲折を経て、とうとうそれが実現したというわけ。

施設の車で出かけることはある。しかし、車いすのお年寄りを列車でなど、考えたこともなかった。が、せっかくの願いを叶えてあげたいという気持ちも…。それは、施設の方針に掲げるダイバージョナルセラピー(※1)の理念「その人らしく楽しく」の実践につながる。

JR徳山駅へ相談に行くと、「無人駅で、列車とホームには段差もあって、専用のスロープもないから、無理」との返事。普通なら諦めるところだが、介護スタッフたちは後日、再び駅長室を訪れると、施設にあったスロープを持ち込んだ。すると…、「こんなに立派なものがあるなら、私たちも使いたいくらいだ」と、許可が下った。

その日、汽笛が鳴ると列車は動き始めた。いつもは見送るばかりのお年寄りが列車に乗っている。その笑顔には誇らしさが満ちていた。「その人らしく楽しく」。一人ひとりの意思を大切に、老いても人生を謳歌することをサポートしたい。のんびり村はそんな、入居者の気持ちに寄りそう施設である。

(記事/山口県東部の地域誌・くるとん/藤井)

朝の散歩で元気に

毎朝、1キロほど離れたJR周防花岡駅までの散歩に出かける。どんなに寒い日でも、雨が降らないかぎり続けている。朝の清々しい空気や日光に触れることは、ココロを元気にして、適度な疲れは夜の熟睡につながる。参加者は風邪をほとんど引かなくなったという。

無人駅が、笑顔でいっぱいに

それぞれのペースでゆっくり歩いて、周防花岡駅に着くと、スタッフが持参したお茶で一息。
そして、9時55分、列車が現れると、笑顔で手を振る。運転手が手を振って応えてくれることも。

〈DT〉ダイバージョナル・セラピーとは?(※1)

一人ひとりの個性や意思を尊重し入居者様の「自分らしく生きたい」を実現するための全人的(身体的、精神的、社会的などあらゆる側面)なケアです。
単にレクリエーションを楽しむのではなく個性や人生に寄り添い、生活のアレンジをも含みます。